最近では、「SaaS(サース)」や「PaaS(パース)」、そして「RaaS(ラース)」などという言葉を、特にIT界隈で聞く機会が増えました。
これら「XaaS(ザース)」とは、「Xをサービスとして購入する」もしくは「Xを定額制でリースする」といったことを指す場合が多いです。「X」の中には「Software」を入れてもよいし、「Platform」や「Robotics」でも良いのです。
ここまでで「何を言っているか分からない」という方がいてもおかしくありません。すでに誰もが「XaaS」という形態で、サービスを利用している可能性が高いのですが、言葉としては、とても分かりづらいからです。今回は、その「XaaS」を、できるだけ簡単に説明していきます。
目次: ■ ゲームにおいても「XaaS」化が急速に進行中! ■ メールやデータ保存を「快適化するコト」を提供するのが「SaaS(サース)」 ■ アプリケーション開発に「打ち込めるコト」を提供する「PaaS(パース)」や「IaaS(アイアース)」 ■ 行きたい場所へストレスなく「移動するコト」を目的とした「MaaS(マース)」 ■ ロボットの導入で「生産性が向上するコト」を提供する「RaaS(ラース)」 ■ 「XaaS」とは、利便性や生産性の最大化を図るためのサービス |
例えば、より身近な「スマートフォンのゲーム」を例にしてイメージしていきましょう。これまで、テレビやスマートフォンでゲームをしたいと思ったら、まずは「ゲームソフト」を購入するのが一般的でした。例えば、ファミコンやプレステのゲームソフト(カセット)を「買って」いたはずです。
この場合のメリットは、ゲーム機本体などが壊れることを考えなければ、購入後は無限に当該ゲームを楽しめるのがメリットです。いわゆる「買い切り」ですね。
一方で、スマホゲームが一般化しているなかで、毎月定額を払ってゲームを楽しむサービス形態が増えています。月額定額制オンラインゲームなどを想像してみてください。多くがサブスクリプションサービスと言われていますが、これを「XaaS(ザース)」で表現するなら、「Games as a Service=GaaS(ガース)」だと言えます。ゲームを購入するのではなく、ゲームで体験できる「楽しさ」を購入すると言い換えてもよいでしょう。
また「GaaS」のメリットは、「ゲームをしたい」と思っているときだけ、必要なゲームを楽しめます。例えば、もっと楽しいゲームを見つけたら、いま遊んでいるゲームを契約更新せず、新しいゲームに乗り換えやすいです。
スマホを買い替えたり、ドコモからソフトバンクなどへキャリアを乗り換えたりしても、新しいスマホにゲームをダウンロードし直せば、引き続きゲームが楽しめるサービスも珍しくありません。
こうしたゲームアプリは、買い切りのゲームアプリよりも、一般的には低価格です。「GaaS」から見た時に「XaaS(ザース)」に共通する特徴は以下のようになります。
「Gmail」や「Yahooメール」を使っている人が多いはずです。特にGoogleのメールをはじめとする「Google Workspace(旧Google Apps)」を導入する企業は多いです。もしかすると、会社で使っているメールがGoogleの提供サービスだったという方もいらっしゃるはずです。
「Google Workspace」と同様に「Microsoft 365」という、マイクロソフトが提供するサービスがあります。数年前までは「Excel(表計算)」、「Word(文書)」、「PowerPoint()」などの「Office」ソフトを、必要があれば購入して、自身のパソコンにインストールして利用していました。購入時のパソコンに、初めからインストールされていた、これらのソフトも、実は購入していたのです。
「Microsoft 365」では、加入(月や年単位で購入)することで、これらのサービスが使えます。導入コストを一気に抑えられるほか、常に最新の状態で使える点がメリットです。また、ログインさえすれば同じデータを、パソコンだけでなくタブレットやスマホなどの複数端末で、複数人でも活用できるのも利点です。
こうした「SaaS」には、例えばストレージサービスの「Dropbox」があります。今も多くの人が、データの管理にUSBメモリやポータブルハードディスクなどの「モノ」を購入して使っています。これを「Dropbox」に換えても、USBメモリーやポータブルハードディスクと同様に、データを保管しておけます。また、同僚やクライアントにデータを受け渡すのも、「Dropbox」であれば席を立ったり郵送したり、取引先に出向くこともなく可能です。
少し専門性が高まりますが、「SaaS(サース)」と並び、よく聞かれるサービスに「PaaS(パース)」や「IaaS(アイアース)」があります。「PaaS」とは「Platform as a Service」、「IaaS」は「Infrastructure as a Service」の略です。
いずれもアプリケーションやシステム開発に関わるサービスです。
「SaaS」は、アプリケーションソフトが稼動するためのデータベースやプログラムの実行環境など、従来はパッケージソフトとして提供されていた機能を、クラウドサービスとしています。
同様に「IaaS」は、アプリケーションソフト開発に必要な、サーバーやストレージ、開発系のミドルウェアなどがをクラウドサービスとして提供します。いずれもソフトウェアやシステム開発者は、パッケージソフトやサーバーやストレージなどのハードウェア(モノ)を購入することなく、クラウドに接続できるパソコンと知識があれば、誰でもアプリケーションソフトウェアを開発できるようになります。
代表的なサービスが前者に「Google App Engine」や「Microsoft Azure」などがあり、後者には「Google Compute Engine」や「Amazon Elastic Compute Cloud」があります。
「XaaS(ザース)」の中で、注目されているサービスの1つが「MaaS(マース)」。これは「Mobility as a Service」のこと。モビリティ……ここでは主に「移動」についての悩みや問題を解決しようというサービスです。
「MaaS」関連で代表的なのが「カーシェア」や「シェアサイクル」などです。様々な場所に置いてある、自動車や自転車を、必要がある時にだけ利用できるサービス。特に人口の密集している都市部では、すでに多くの人が利用しています。
こうした「移動」の利便性を高める「MaaS」は、今後も拡張されていきます。例えば、従来のバスや電車、タクシー、カーシェア、シェアサイクルなど、あらゆる交通機関を結びつけて、人が効率よく移動できるようにするシステムの構築は、国内でも国土交通省と経済産業省が中心となって、推進しようとしています。
例えば東京都内で考えると、電車だけでもJRや東京メトロ、都営地下鉄、東急や小田急、東武鉄道など様々な運営会社があります。バスやタクシーも同様であり、レンタカーやカーシェア、シェアサイクルも複数事業者が存在します。これらを、あたかも1つのサービスを使うように利用して、効率的かつ容易に移動できるようにしようというのが「MaaS」です。
あらゆる交通機関を包括した「MaaS」の事例は、フィンランドが首都のヘルシンキで行なっている「Whim(ウィム)」というサービスが有名です。同サービスに登録すると、月額定額などで、市内の複数交通機関を自由に使えます。日本でも、狭いエリアでの実証試験段階ですが、この「Whim」と提携したサービスが始まっています。
初期の「XaaS(ザース)」は、IT領域かつクラウド上で提供されるものを指すのが一般的でした。これが移動手段の「MaaS(マース)」や、ロボティクスの「RaaS(ラース)」では、クラウド技術を取り入れつつ、リアル世界でのサービス提供を行なっています。
「RaaS=Robotics as a Service」の具体例としては、工場や倉庫などに物流ロボットによる効率化を提供するサービスがあります。これまでは人が台車やパレット、フォークリフトを動かし、商品のピッキングなどを行なっていたのを、ロボットに置き換えるというサービスです。
従来は、必要なロボットなどを購入する必要がありました。ロボット化することで、生産効率の向上という明確なメリットが得られることは想像できますが、初期の導入コストが莫大なため、中小規模の事業者にとっては、リスクが高くなかなか導入に踏み切れなかったのです。
これが「RaaS」であれば、導入コストが低く、導入しやすいのです。直接の利点としては、人件費を抑えられることが挙げられます。付随して、これまで必要だった従業員の募集や採用、教育、シフト管理などに掛かるコストも不要になります。
事業を拡大または縮小したい場合にも、ロボットなどの機材を追加購入または売却する必要もありません。「RaaS」のサービス業者に、その旨を相談すれば、すぐに最適化を図れるからです。
つまり工場や倉庫の管理者からすればロボットが欲しいわけではなく、ロボットが生み出す生産効率の高さが魅力なのです。「Raas」の提供会社は、工場に人ではなくロボットを派遣し、顧客の生産効率を高めることが目的です。顧客の生産性の最大化を図るのが目的であって、ロボットを貸し出す(リース)ことが目的ではないということです。
今回は代表事例を把握することで、いま話題の「XaaS(ザース)」がなにかを、なんとなく理解してもらえたかと思います。
数年前から消費者のニーズは、「モノ消費」から「コト消費」へと移ってきていると言われてきました。「モノ」に価値があるのではなく、楽しい体験や時間などの「コト」に価値があるということ。
まさに「XaaS」は、消費者ニーズが「モノ」から「コト」へと変化してきたことで生まれてきたサービスです。周りを「モノ」で溢れさせてしまうことを防ぎ、かつ求めていた成果を効率よく達成することを目的とします。
多様化していくだろう「XaaS」を上手に活用することが、自分や企業を効率よく成長させていく鍵となるのです。