もはや、自動倉庫、ピッキングロボット、パレタイズロボット、そして+Automationも提供するAGV(automatic guides vehicle)やAMR(Autonomous Mobile Robot)などの物流ロボットは、特別なジャンルではない。むしろ、製造用産業ロボットよりも、物流ロボットにより人だかりが多かったと感じるのは、筆者のひいき目だろうか。
とは言え、物流ロボットの本格的な普及はまだこれからである。物流ロボットが、製造分野で活躍する産業用ロボット同様、世の中へ普及する上で障害となるキャズム(溝)を越えるために必要な条件について、前後編に分けて考える。
前編では、筆者が注目したブースの紹介をしていこう。
注目される物流ロボット
国際ロボット展は、東京ビッグサイト内でも格段に広い東展示棟をすべて貸し切って行われた。早々に、物流関係のロボットがエリア分けされていないことに気づいた。
「この広い会場を、隅から隅まですべて見て回るのか...!?」──少々驚いたが、その理由はすぐに分かった。多くの出展者が、製造用ロボットと並び、物流ロボットも出展しているのだ。
もちろん、製造用ロボットだけを展示している出展者、物流ロボットだけを展示している出展者もいる。だが、大手ロボットメーカーほど、必ずと言っていいほどラインナップの中に、物流ロボットを取り揃えているのだ。
その中でも、目を引いたのが自走型ロボットである。
パナソニックは、宅配ロボットを出展していた。無人・自律走行型の宅配ロボットは他にも出展されていたが、興味深いのは、神奈川県藤沢市とともにさまざまな共同プロジェクトを行う、『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)』にて実証実験を行っている点である。
「実証実験を重ねることで、宅配ロボットに求められる機能や性能などのスペックを洗い出しています」──担当者の放ったこの言葉の意味は、とても重要だ。
宅配ロボットが共存する社会など、まだ誰も知らない。宅配ロボットに必要なスペックなど、誰も知らないし、分からないのだ。現在のロボットは車輪を備えているが、もしかすると本当に必要なのは無限軌道かもしれないし、4足歩行かもしれない。大きさだって、今のサイズが適正であるかは分からない。
「誰も知らない・分からない、未知のスペックを導き出すこと」、このハードルは、物流ロボットがキャズムを越える上で、欠かせないプロセスとなる。
(村田機械)
フィブイントラロジスティクスのブースでは、Skypodと
同社得意のソーターシステムを組み合わせるソリューション提案を行っていた
ラックとAGVを組み合わせるコンセプトは、村田機械、フィブイントラロジスティクス、IHIなどが出展していた。これもとても興味深い。
村田機械の「ALPHABOT」は、BOTと呼ばれるロボット台車(AGV)がコンテナの格納、出庫、搬送をすべて担う。BOTは昇降動作時に蓄電するため、充電器も不要だ。
最大のメリットは、自動倉庫に比べてリスク回避ができる点だと言う。確かに自動倉庫が故障した場合には、装置全体を一旦停止させて、点検を行う必要があるが、このタイプであれば、故障したAGVを取り除き、引き続き業務を継続することが可能である。
フィブイントラロジスティクス、IHIが出展していた「Skypod」(EXOTEC / フランス)も、同様にラックとAGVを組み合わせるコンセプトである。フィブイントラロジスティクスは、ベルトソーターを得意とするメーカーだが、Skypodと組み合わせることで、より柔軟性の高い「Goods to Person」(G2P)ソリューションを実現できる。
ちなみに、「ALPHABOT」は高さ10m、「Skypod」は高さ12mまでラックを組むことができるそうだ。実際、そこまで高いラックを実現できる倉庫は限られてくるだろうが、この収納能力のポテンシャルは大きな魅力だろう。おそらく、従来の自動倉庫やベルトソーターシステムに比べれば、AGV+ラックの組み合わせソリューションの方が、拡張、動線変更などの見直しも融通が利くはずだ。これは、物流ロボットを導入する上で、今後とても大切になってくるポイントだと思う。
遠目からでも人だかりが分かったのが、ラピュタロボティクスのブースである。
ラピュタロボティクスは、初期導入コストだけでなく、ロボット導入判定などの簡易的なコンサルティングまで無料にする初期費用無料プログラムを2021年10月に発表し、話題を集めた。だが、ブース訪問者らの興味はもっと本質的なところ、すなわち同社のAMR「ラピュタPA-AMR」に集まっていた。
一見すると、ピッキング用ボックスを積んだだけのAMRに見える「ラピュタPA-AMR」だが、最大のポイントはピッキングを行う倉庫作業員と協働する点にある。同社のPR動画を見れば、ピッキングを行う作業員と「ラピュタPA-AMR」が、まるでお互いの呼吸を読み合うかのように「ピッキングする」(作業員)と「運ぶ」(ロボット)を実現している様子が分かる。
参考:Rapyuta Robotics動画
ラピュタロボティクス担当者によれば、「ラピュタPA-AMR」はロケーション単位で導入されるケースも多いという。倉庫作業員が行う仕事のうち、「運ぶ」作業を中心に分離して導入することができる「ラピュタPA-AMR」だからこそ、庫内業務の大幅な見直しを行うことなく、ロケーション単位で気軽に導入できるのだろう。
これは、物流ロボット普及におけるキャズムを考える点で、とても重要だ。
前編となる本稿では、国際ロボット展2022において、筆者が気になったブースを紹介した。後編では、+Automationのブースを紹介しつつ、物流ロボットの普及を妨げているキャズム(溝)を越えるために必要な条件について考えよう。