少子高齢化による労働力の減少が進む中、労働集約的な物流業界には様々な課題があります。WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)は倉庫業務の生産性の向上につながり、労働力不足という課題の解決を図るデジタルツールです。WMSがどのように倉庫内作業の効率化に役立つのかについて説明します。
目次 1.2024年問題と倉庫における労働不足による課題 2.労働集約的な倉庫内作業と課題 3.倉庫内作業の課題解決を実現するWMS 4.WMSは生産性向上と省人化の切り札 5.まとめ |
急速な少子高齢化で日本の人口が減少する中、労働力の減少も顕著になっています。
平成21年(2009年)の国土交通省による「物流施設における労働力調査」(*1)によると、生産年齢層である15~64歳の人口は、2005年から2055年までの50年で8,400万人 から4,600万人と半数近くまで減少する見込みといわれています。
労働力の年齢構成においては、20代以下の若年層の割合が減少し、50代以上の高年層が増加傾向にあります。倉庫業に目を向けると、2030年の産業全体における若年層の割合は20%であるのに対し、倉庫業が15%の見込みとなっています。一方、2030年の高年層の割合は産業全体が32%に対し、倉庫業が35%となっており、物流業界において少子高齢化の影響が顕著に表れることが予想されます。
*1:平成21年3月 国土交通省政策統括官付参事官(物流施設)室より引用
物流施設における労働力調査 調査報告書
https://www.mlit.go.jp/common/000043954.pdf
こうした状況下、物流の「2024年問題」が差し迫っています。「2024年問題」とは2024年4月1日以降、働き方改革関連法の改正によってトラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限されることで発生する諸問題です。
輸送会社は一層のトラックドライバーの労働時間削減の対応が必要となります。加えて、燃料費の高騰や輸送費増額は荷主へ転嫁が進まず、輸送会社の経営を圧迫しています。長時間労働の過酷な環境に加え、年収増が見込めないトラックドライバーの離職の増加が懸念されています。
トラックドライバーの長時間労働の要因には以下が挙げられます。
特に、トラックドライバーが行っている慣行的な作業は、時間外労働の規制により困難になることが予想され、今後は荷主や倉庫側で効率的に実施することが求められるでしょう。
参考資料:公益社団法人全日本トラック協会「トラック運送業界の2024年問題について」令和4年10月6日
トラックドライバーの労働時間削減が問題になる一方で、倉庫内においても課題があります。倉庫では、繁茂期と閑散期の物流波動の吸収をスタッフの増減で対応したり、物流品質の改善を現場のベテランスタッフに依存することがあり、平準化や標準化の課題を抱えています。
倉庫の労働環境も厳しく季節による寒暖差の影響も受けます。たとえば、夏期の冷凍倉庫は外気と庫内の温度差が50度以上にもなり、身体への負担が高い過酷な環境です。倉庫内では貨物の落下や荷崩れなどのリスクも存在し、労働集約型で危険が伴う倉庫内作業は若年層から敬遠されがちです。
倉庫の現場だけではありません。事務部門の課題とデジタル化の遅れがあります。取引先によって異なる様々な様式のデータや紙の伝票を、メールやファックスなどアナログとデジタルが混在した方法でやり取りする傾向があります。こうしたマニュアル作業をRPA(Robotic Process Automation:ロボティクス・プロセス・オートメーション)やクラウドの導入によりデジタル化を進める会社もありますが、属人的なデータ入力や転記作業により対応している会社も多くあります。
物流部門は経営面からコストセンターとの認識されがちで、設備投資の優先順位が低くなることがあります。そのため、自動化よりも人的リソースの投入で課題解決する傾向がありました。また、現場部門も変化を望まず新しいシステムの導入に抵抗を示しがちです。
このような倉庫の課題解決方法の1つとして、WMSの導入が考えられます。
WMSとは、Warehouse Management Systemの略称で倉庫業務を担うシステムです。WMSは、在庫管理、ピッキング、出荷指示、各種の伝票印刷などを管理・運用することができ、倉庫作業の正確性と作業スピードの向上を実現します。WMSは現品の詳細なロット番号や入出庫日などの管理や、ロケーション管理やステータス管理も可能です。WMSがない場合は在庫管理台帳と人手による在庫管理が必要となり、正確性とスピードに課題が残ります。
WMSの主な基本機能は以下の3点になります。
WMS等のシステムを導入することで、人手に頼る作業を効率化することができます。
WMSの導入により得られる効果について以下に記します。
WMSは倉庫全体の作業工程の現状を把握し可視化することで倉庫運営の全体最適化を図ることができるようになります。
WMSは倉庫の様々な作業をムダなく効率的に低コストで行うために進捗管理を行い、ボトルネックの可視化を行うことで改善につなげます。
WMSは「入荷」「格納」「出荷」の作業状況を一元的に把握し、入荷した商品の次の動きを認識することができます。また、ステータス管理とロケーション管理機能により、保管されている商品の状態を可視化できます。例えば、入庫検品中、保管中、出荷止め、出荷の引き当て中などを把握することができます。
さらにWMSは単独で利用するのみならず、他のシステムとの連携で課題解決の範囲が広がります。
WMSは他のシステムとも連携することで倉庫の物流工程の生産性向上を図ることができます。一般的に、WMSと連携できるシステムについて以下に記します。
ERPとは生産・販売・会計などの機能を統合管理するための企業の基幹システムです。
ERP上で受注された商品は在庫の引き当て後、出荷指示が出されます。ERPと連携したWMSはその出荷指示を基に、倉庫に保管されている現品に対してピッキング指示や出庫指示を出します。
TMSとは配車計画、出荷方面やルートの集約、トラックへの貨物の割り付け、配車指示、配送実績や運行実績の管理等を行うシステムです。
WMSとTMSを連携させることで、配車計画に即した配送方面別のピッキング作業・仕分け作業が可能なシステムもあります。
WMSと連携する自動化機器には多種多様な機器があります。たとえば、バーコードリーダーやRFID(Radio Frequency Identification)は入出庫時の検品作業を効率化します。
WMSはWCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)と連携させることで、自動倉庫やDPS(Digital Picking System)、ソーターなどのマテハン機器や自動化機器への動作指示を受け渡すなど協調した運用が可能になります。
WMSは在庫に関わる情報や作業工程の進捗、実績などをデジタルデータとして蓄積することができます。こうしたデータを活用することで現場作業の精度向上と効率化、物流品質の向上や作業の平準化を図ることができ、労働集約的な業務を省力化、省人化することが可能となります。
倉庫と輸送は物流の根幹をなす要素です。しかし、2024年問題でトラックドライバーやトラックの稼働台数が減少し、そもそもの輸送需要に対する供給が困難になる可能性があります。今後はトラックドライバーに依存していた荷役作業等を倉庫側で行うよう慣行を改善したり、TMSやバース予約システムを活用するなど輸送側にも配慮した倉庫運営が求められていくでしょう。
生産性の向上を実現するシステムであるWMSの活用をはじめとして、倉庫運営のデジタル化が物流の2024年問題の改善にも寄与していくのではないでしょうか。
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