2024年問題で注目を集める情報システムの紹介
物流の2024年問題(以降「2024年問題」)とは、2024年4月からの「時間外労働の上限規制」による様々な影響のことです。近年EC需要の増大による物量の増加やオペレーションの複雑化そして2024年問題への対応を目的としトラック運送事業での物流DXが加速しています。
物流システムへの投資は年々増えています。EC需要の増大による物量の増加や複雑なオペレーションへの対応が背景です。人手不足解消や業務効率化を目的としたロボティクスやIoTなど先端技術の活用が進んでいます。
情報システムの分野ではクラウド型のWMS※1(倉庫管理システム)が浸透。また、WMSだけでなく、トラック運送事業に関連するTMS※2(輸配送管理システム)やバース予約システムも進化しています。「物流DX」※3のニーズを満たそうとWMS同様にクラウド型やAIを活用した機能などが実装されてきています。
加えてクラウド技術を取り入れたデジタコ、スマートフォンを活用した車両動態管理など新たな製品や機能が展開されています。本記事ではWMS以外の情報システム、特に近年需要の高まりが期待されるこれらトラック運送事業に向けたシステムを紹介します。
※1)Warehouse Management Systemの略
※2)Transport Management Systemの略
※3)「物流DX」とはデジタル化を通じて物流のこれまでの在り方を変革することと定義づけられています
(出典:国土交通省「最近の物流政策について」)
市場の状況
WMS(倉庫管理システム)、バース予約システムや輸配送管理システムを含む市場は2022年、前年比で105.4%増とされています。市場にけるウエイトは依然としてWMSが大きいですが、今後はWMSに加えバース予約システムや輸配送管理システムの需要が増加するとみられています。
(出典:株式会社富士経済「2023年版 次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展望」)
物流の2024年問題
「時間外労働の上限規制」のトラックドライバーへの適用が、2024年4月に迫っていることが大きな要因です。いわゆる物流の2024年問題です。トラックドライバーの労働時間が短くなることで輸送能力が不足し「モノが運べない」可能性などが懸念されています。
ドライバーの人手不足や長時間労働を解決するため、荷待ち時間の短縮やトラックの稼働率の向上、配送・庫内作業の効率化など「物流DX」への取り組みが加速しています。
物流業務の構造的問題への解決期待
物流業務は構造的に以下の問題を抱えています。
①荷主や事業側の要求が厳しく、宵積みからの夜間運行や長時間運行が常態化する ②運送事業者側の運行計画と倉庫側の作業予定が共有・考慮されず、車両集中による待機が発生する ③生産地と需要地の立地的関係から、長距離輸送が避けられない ④荷主側の要求や運送事業者側のサイロ化の進行から、積載効率は40%未満で推移している ⑤荷主との契約内容が曖昧なまま取引継続しており、「運賃」以外の荷役作業等を適切に請求できていない |
「2024年問題」はこれらの構造的問題に深刻な影響を及ぼすと考えられています。このような背景から対策となるバース予約システムやTMSによる「物流DX」への期待が高まっています。
物流業務の 構造的問題 |
2024年問題の 影響 |
運送事業者及び荷主、倉庫側が取るべき対策 「支えるシステム」 |
①荷主や事業側の要求が厳しく、宵積みからの夜間運行や長時間運行が常態化する |
残業時間規制の影響から、長時間運行が制限される |
商慣行の変更(納期の後ろ倒しなど)、「TMS(配車計画・管理、車両動態管理)」の活用による運行計画・配車計画の最適化 |
②運送事業者側の運行計画と倉庫側の作業予定が共有・考慮されず、車両集中による待機が発生する |
待機によってドライバーが拘束されると、一日当たりの配送件数が制限される |
「バース予約システム」の導入による情報の共有と計画最適化による待機の解消 |
③生産地と需要地の立地的関係から、長距離輸送が避けられない |
残業時間規制の影響から、通しでの長距離輸送が不可能になる |
商慣行の変更(納期の後ろ倒しなど)、「TMS(配車計画・管理、車両動態管理)」の活用による中継地点と載せ替えを加味した効率的な運行計画・配車計画の実現 上記に加えて「IT点呼」、「クラウド型勤怠管理システム」を利用することでより高い効果が期待できる |
④荷主側の要求や運送事業者側のサイロ化の進行から、積載効率は40%未満で推移している |
輸送能力の低下により、積載効率は更に低下するおそれがある |
各システムによるデジタル化で情報共有を促進し、拠点間・運送事業者間をまたいだ共同配送及び最適な運行計画・配車計画の立案 既存の「求荷求車システム(サービス)」の利用も有力な選択肢と考えられる |
⑤荷主との契約内容が曖昧なまま取引継続しており、「運賃」以外の荷役作業等を適切に請求できていない |
荷役作業等に係る対価が得られないため、収益がさらに圧迫される |
運送契約の書面化をはじめ、荷役作業等に係る対価の明示、運賃と料金の別建て契約への変更と「TMS(車両動態管理、日報等帳票作成)」による明朗な請求/支払の実現 上記に加えて「クラウド型デジタコ」「クラウド型勤怠管理システム」を利用することでより高い効果が期待できる。
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「2024年問題」対策を支えるシステム
バース予約システム
バース予約システムは、トラックの待機時間削減を図るためのシステムです。
同時に物流施設(倉庫)の作業効率の向上も可能です。ドライバーは物流施設への到着時刻等をスマートフォン等の携帯端末やパソコンから事前に予約します。これによりドライバーは順番待ちをする必要がなくなります。倉庫も事前に作業計画を組めるため、より効率的な作業が可能になります。
より詳しく知りたい方にはこちらの記事がおすすめです。
(関連記事:2024年問題への対応 バース予約システムを活用したトラック待機時間の削減)
TMS(輸配送管理システム)
TMSとは輸送・配送(輸配送)の実務を管理するシステムです。そのまま輸配送管理システムや運行管理システムと呼ぶ場合もあります。
トラック運送事業における運行管理で必要とされる主要な機能は以下の通りです。
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配車計画・管理
配車計画・管理とは荷主の受注情報から出荷に必要なトラックの手配、ピッキングや 積込みの段取り、配送ルートなどの計画を立てる機能です。また立てた計画の進捗や実績を管理します。近年ではAI等を活用して配車計画の最適化をよりサポートしてくれるシステムも登場しています。
車両動態管理
車両動態管理とはGPSを利用して車両の現在地や運行状況を確認する機能です。GPS機能の搭載された車載端末やスマートフォンからの車両の情報をインターネット経由でリアルタイムに確認することが可能です。また必要な情報は実績としてシステムに登録され、計画の進捗状況や日報等のインプットに適時反映させることが可能です。
日報等帳票作成
資料作成やその前段で必要な集計や計算を自動化する機能です。上述の配車計画・管理や車両動態管理と統合されている ため運転日報を手書きなどで作成する負荷が軽減されるだけでなく、手入 力などで発生していたによる誤謬(誤り・重複・漏れ)が発生しません。経営の可視化をサポートする帳票・レポートもあります。
クラウド型デジタコ
デジタルタコグラフ(略称デジタコ)とは、速度や走行距離などの数値を記録する機器です。
トラック運送事業者における導入率は高く、馴染みのある機器です。近年はGPS搭載に加えてインターネットを経由して運行情報をTMSに連携する機能を有するクラウド型が増えています。
クラウド型勤怠管理システム
勤怠管理システムは、始業・終業、運転時間、休憩時間などの時刻を記録(打刻)します。また記録した情報を集計管理するシステムです。
クラウド型のものではICカードだけでなく、パソコン、スマホ、タブレット、QRコードや指静脈など多様な打刻方法に対応が可能です。本社や事務所と離れた遠隔地のドライバーの勤怠情報をリアルタイムに把握できます。また、把握した情報を元にドライバーへ労働時間が超過しないよう適時指示を出すことも可能です。
IT点呼システム
IT点呼とは、 IT機器 (WEBカメラ、スマートフォン、タブレット、アルコール検知器付帯)の画面を通して行う点呼です。
遠隔地での点呼はもちろん、深夜・早朝でも確実に点呼できるため漏れを防ぐことができます。営業所と車庫が離れているなどの場合でも営業所に立ち寄る必要がなく、ドライバーの時間短縮になります。また営業所での対面点呼も含めてシステムで情報を一元管理することで運行管理の精度を向上させます。
求荷求車システム
求荷求車システムは、インターネットなどの情報システム機能を利用して車両と荷物の情報をマッチングさせるシステムです。
トラックや荷物を融通しあうことで、帰り荷の確保や車両積載率の向上などの効果が期待できます。季節波動やスポット受注の獲得も期待できます。
まずは既存システムの入替から
「いくつものシステム導入が必要」、「全く新しいシステムが必要」と対策を諦めていないでしょうか。既存のシステムを入れ替えるだけで複数のニーズが満たせてしまうこともあります。
例えば、クラウド型のデジタコには車両動態管理機能が備わっているものが多いです。オプションで日報の自動作成が可能なものもあります。さらに、リアルタイムの運行状況に応じたドライバーへの指示、安全運転や燃費改善を支援する機能が付帯されているものも。既存のデジタコや点呼機器は規制に応じる「守り」の目的で導入したかもしれません。今度は「攻め」のニーズも満たしてくれるものを前向きに検討してはどうでしょうか。
まとめ
2024年問題を契機に需要の高まる物流システムは問題への解決と共にさらなるメリットも期待できます。確かにシステムの費用に加えて現場でのテストや運用を定着させるための手間は少なからずかかります。しかし、多くの事業者で導入されているデジタコなどは経年劣化によっていずれ入替が必要です。規制への対応だけでなく、安全運転の向上や経営の可視化など「攻め」の目的にも目を向けるとよいでしょう。