物流DXを支えるクラウド時代のデータ連携

物流DXの実現にはロボットやシステムの導入に加えて、それらをつなげることが重要です。システムを「つなげる(=連携)」には様々な方法があります。

 

物流DXのかけ声のもと、多様なシステムの導入が進んでいます。WMSやデジタコのように物流事業者にとって馴染み深いものもクラウド技術の普及とともに進化しています。

導入後すぐに利用できるのがクラウドサービスのメリットです。一方で複数のシステムやサービスを運用するとデータの利活用や管理をどう実現するのか、データを同期させるために手動でシステム間の転記をする作業負荷などシステム間のデータ連携が課題となってきます。

 

物流DX

 物流は国民生活や経済を支える社会インフラです。しかし担い手不足やカーボンニュートラルへの対応など、様々な課題に直面しています。物流産業を魅力ある職場にするため、トラックドライバーの働き方改革に関する法律が2024年4月から適用されます。物流の停滞が懸念される「2024年問題」を乗り越え、物流産業のさらなる発展に「物流DX」は大きな期待が寄せられています。

2024年問題

 トラックドライバーの労働時間が短くなることで輸送能力が不足し「モノが運べない」可能性などが懸念されています。問題に何も対策を講じなければ、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足の可能性があるとも言われています。

対策には荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等)、一般消費者が協力する必要があります。内閣府の「物流革新に向けた政策パッケージ」では以下の枠組みで具体的な施策を掲げています。

 (1)商慣行の見直し
 (2)物流の効率化
 (3)荷主・消費者の行動変容

 上記「(2)物流の効率化」において「物流DX」は具体的施策の一つとして挙げられています。

 (参照: 内閣府「物流革新に向けた政策パッケージ」)

物流DXとは

物流DXとは「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」と定義されています。

(出典:国土交通省「最近の物流政策について」)


機械化

・ 庫内作業の自動化を目的としたロボットや自動倉庫の活用
・ 輸送の自動化を目的とした自動運転の実証段階から実装への移行
・ 配送の効率化を目的としたドローン物流の試験運用とインフラ整備

デジタル化

・ 手待ち時間の削減を目的としたバース予約システムの利用促進
・ 業務効率化を目的としたIT点呼や輸配送管理システムの導入
・ 積載効率向上を目的とした求荷求車システムの活用

 

デジタル化についてより詳しく知りたい方にはこちらの記事がおすすめです。

(関連記事:2024年問題で注目を集める情報システムの紹介

 

物流DXの実現には複数システムによるトータルソリューションが重要

物流DXの実現には複数システムによるトータルソリューションが重要イメージ 

物流DXを実現には単一のロボットやシステムの導入だけでは不十分です。物流領域には複数の会社をまたいだ複数の業務工程があり、それらを単一のシステムで全てカバーすることは不可能だからです。ロボットやシステム同士を連携させることで導入の負担を減らし、シナジーを生むことができます。

システムを連携する理由

システム間でデータ連携をするメリットは以下の通りです。

・ データの一元管理
・ オートメーション(自動化)
・ 作業や二重入力の排除
・ 共通化・再利用
・ オープンイノベーション

市場も総合的な対応への展開を予想

物流DXの実現には、単一ソリューションによる個別最適でのデジタル化ではなく、複数製品を組み合わせたトータルソリューションによる全体最適の観点が重要となると考えられてます。

 製品・サービスの個別の進化はもちろん、複合的なソリューションの展開を背景にして国内の物流システム・サービス市場は2030年には2021年比78.6%増、1兆1,831億円と予測されています。

(出典:株式会社富士経済「2023年版 次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展」)

 

連携の種類

 データ連携方法にはいくつか種類があります。

画面(UI)入力

ユーザーのPC(クライアントPC)の入力画面でデータを入力してきます。

ダウンロード/アップロード

データが入力されたファイルをクライアントPC経由で連携します。クライアントPC内のツールを用いることで作業の一部を自動化することもできます。2010年代後半に急速に普及したRPAは「ダウンロード/アップロード」や「画面(UI)入力」の自動化を支援してくれるツールです。


 ※RPA:ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)の略

リソース共有(データベース共有/ディスク共有)

複数のシステムでデータベース等を共有する方法です。システムと共有リソースが同一LAN上にあるような環境で利用されます。社外との連携には向きません。

ファイル連携

 データをファイルにまとめて連携先へ転送する方法です。社内はもちろん、社外との連携にも用いられます。オンプレミス環境やプライベート回線(専用線)で利用されることが多いです。

アプリケーション連携

システムに外部から呼び出すことのできるインタフェースを用意します。連携する側は公開されているインタフェースを利用して、データへのアクセスや機能の利用をします。近年はクラウドの普及と共に「Web-API(以降、APIと記載)」の重要性が高まっています。

 

APIとは

APIとはイメージ

APIとはapplication programming interfaceの略です。ソフトウェアコンポーネント同士が互いに情報をやりとりするのに使用するインタフェースの仕様のことです。

 APIとはあるプログラムの機能をその他のプログラムでも利用できるようにするための規約です。以前から自社内のプログラム開発を効率化する用途で使われる技術の一つでした。通信品質の向上やクラウド技術の発展もあり、自社で開発・運用しているサービスに外部から連携できるようAPIを公開する動きが活発です。

連携するツールや機能そのものではない

APIとはシステム同士がつながる窓口であり、約束事です。API自身は受け身で、他のシステムがつながる(外部のプログラムから呼び出される)のを待っているだけです。

例えば、APIが公開されている2つのシステムがあったとします。お互いのシステムをつなぐには連携処理をプログラミングする必要があります。お互いのAPIを呼び出す機能が別途必要なのです。具体的には、呼び出す機能のほかにも、お互いのデータ項目のマッピング、重複データの扱いやエラー時の処理などを開発する必要があります。

 

APIの伸長

APIが生み出す市場

APIが生み出す市場(APIマーケットプレイス)は伸びています。世界のAPIマーケットプレイスは2024年に880億円規模に達すると予想されています。

 (出典:株式会社 日本能率協会総合研究所MDB Digital Search 「有望市場予測レポートシリーズ」)
 

 APIの利点

APIの公開・利用には以下の効果が期待されています。

効果 効果が得られる背景
① オープンイノベーションの促進 APIを公開することにより、様々な業種の様々な職種の人が自社のサービスにアクセスできるようになり、自然と新たな利用方法を考えてもらうことが可能になる。結果として、自社では想定もしていなかったような新たなアイデアが生まれる可能性がある。
② 既存ビジネスの拡大 APIを公開していない場合と比較して、リーチ可能な顧客層が大きく増える。潜在顧客としても未想定層が自社サービスを利用する可能性もある。また、公開したAPIの利用者に課金をすることにより、自社のデータやシステムを新たな収益源にできる可能性がある。
③ サービス開発の効率化 自社が公開することの直接的な効果ではないが、APIを公開する企業が増えれば、既に世の中に存在する機能をAPIとして利用することで開発コストを抑制しつつ迅速な新規サービスの開発が可能になる。

(出典:総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年))


配車アプリによる API エコノミー形成の例(出典:総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年))

 

APIの効果を発揮させる

APIの効果を発揮させるのに大事な点が2つあります。データの標準化と連携を支援するツールの活用です。

データの標準化

APIを含むデータ連携にはシステム間のデータマッピングが必要になります。項目自体をマッピングするのはもちろんなのですが、データの構成(レコード構成)やデータの粒度や単位を揃える、あるいはそれらを考慮したデータ変換を連携機能に盛り込む必要があります。また連携したいデータに加えて、必要となるマスタデータについても同期する必要があり、マスタデータについてもシステム間でのデータ定義を整備する必要があります。

EAI ツール

EAI ツールとはEnterprise Application Integration(企業アプリケーション統合)の略です。元は企業内における複数のシステムやサービスを連携/統合する仕組みや技術のことです。電子商取引システムとの接続や企業間のデータ連携の手段としても用いられるようになっています。代表的な製品には以下があります。
 

 

ローコード/ノーコード開発

API連携には原則呼び出し機能の開発が必要です。「EAI ツール」によりローコードあるいはノーコードで連携機能の開発が可能になります。データ変換の機能も備えており、開発工数の削減など効率化が図れます。


統合管理

連携するシステムが増えればその管理も増えていきます。どのシステムとどのシステムが連携しているのか、どのような連携方法なのか、不具合等は起こっていないかを「EAI ツール」で統合的に管理することが可能です

 

 まとめ

物流DXの基盤作りとして重要なデータ連携について説明してきました。中でもWeb-API(API)はクラウド時代に重要度を増している技術です。APIの活用にはデータ標準化が必須です。また活用にはEAIツールが有効です。

データ標準化やツールの利用でシステム間連携の基盤が整備されると、新たなシステムやサービス導入のハードルを下げることができます。DXにはトライアンドエラーが欠かせません。そのため連携基盤の整備はアドバンテージになります。是非APIの積極的な活用や連携基盤の整備をご検討いただければと思います。